
Florence Iron Stoveとは?
今回ご紹介するのは、Florence Iron Stoveです。
3基の平芯バーナーと鋳鉄製の加熱台を備えた、アメリカ製の灯油ストーブです。電気アイロンが普及する以前、鋳鉄製のアイロンを温めるために使われたSad Iron Heater(アイロンヒーター)の一種と考えられます。
今回の個体は3つのバーナーを備えた大型仕様です。アイロンの加熱だけでなく、湯沸かしや簡単な調理にも利用できる構造になっています。

電気以前のアイロンを支えた加熱器具
19世紀の一般的なアイロンは、電気ではなく、厚い鋳鉄の本体を外部の熱源で温めて使用していました。英語では「Sad Iron」または「Flat Iron」と呼ばれます。
使用中に温度が下がるため、複数のアイロンを順番に加熱しながら交換する方法が取られていました。こうした作業を効率化したのがSad Iron Heaterです。

上部の鋳鉄製プレートには3つの細長い開口部があり、それぞれの下に独立した燃焼筒が配置されています。3個のアイロン、または複数の調理器具を同時に温められる構造です。
3基の独立した平芯バーナー

正面には3つの芯調整ノブがあり、それぞれの炎を個別に調整できます。燃焼筒の小窓にはマイカ(雲母)が使われ、点火状態や炎の高さを外側から確認できます。
ガラスではなく薄いマイカを使うことで、熱に耐えながら内部の炎を見られるようになっています。

分解すると、各バーナーに幅約10mmの平芯が取り付けられていることが分かります。燃料タンクは3基で共用し、芯が灯油を吸い上げて燃焼するシンプルな仕組みです。
分解して分かる構造

本体は、燃料タンク、三連バーナー、燃焼筒、マイカ窓、鋳鉄製加熱台などに分解できます。重量のある鋳鉄部品を多用しており、実用品として頑丈に作られています。

下部全体が燃料タンクです。燃料口にはコルク栓を使用する構造が確認できます。
1876〜1886年の特許日

正面には薄くなっていますが、「Florence」のデカールが残っています。また、本体には次の特許日が刻印されています。
PAT. NOV. 14. 76
DEC. 7. 80
JULY 11. 82
JUNE 8. 86
これは1876年、1880年、1882年、1886年に成立した複数の特許を示すものです。最初の「1876」は、この個体の製造年を意味するものではありません。
Florenceブランドと会社の歴史
Florence Lamp Stoveは、マサチューセッツ州FlorenceのFlorence Machine Companyによって製造されていました。
1890年11月15日、Florence Machine Company、American Oil Stove Company、Union Gas and Oil Stove Companyなど17社が統合され、Central Oil & Gas Stove Companyが設立されました。今回の個体は、販売時資料ではCentral Oil & Gas Stove Company製とされています。現存するデカールや構造からも、同社が引き継いだFlorence系列の製品と考えられます。
Central Oil & Gas Stove Companyは1924年頃にFlorence Stove Companyへ改称しました。販売時資料の会社情報が正しければ、今回の個体は1890〜1924年頃に製造された可能性があります。ただし、同型品を掲載した当時のカタログは現時点で確認できておらず、正確な製造年は断定できません。
1886年の資料に登場するFlorence Lamp Stove

1886年5月の『Ladies’ Home Journal』には、1バーナー型のFlorence Lamp Stoveが掲載されています。図版の製品は今回のトリプル型とは異なりますが、Florence Lamp Stoveの用途と基本的な位置づけを知る重要な資料です。
構造がシンプルで丈夫なうえ、さまざまな調理ができ、明るく力強い光も放つ。約1クォート(約0.95リットル)の水を8分で沸騰させられ、煙や不快な臭いが出ない。
当時は、湯沸かし、簡単な調理、照明、病室や夜間の補助熱源として紹介されていました。つまりFlorence Lamp Stoveは、アイロンの加熱だけに限定された器具ではなく、家庭内で幅広く使える小型灯油ストーブだったことが分かります。
出典:『Ladies’ Home Journal and Practical Housekeeper』1886年5月号
1898年には調理用ストーブも展開

1898年の広告では、Central Oil and Gas Stove CompanyがGardner工場を拠点に、Florence Automatic Oilgas Cookerを販売していたことが確認できます。
広告掲載品は今回のアイロンストーブとは異なる調理用モデルです。ただし、Florenceブランドが灯油を使う家庭用調理器具へ広く展開していたことを示しています。
出典:『Ladies’ Home Journal』1898年2月号
点灯時の様子

点灯すると、3つのマイカ窓からそれぞれの炎を確認できます。各バーナーを個別に調整できるため、必要な場所だけを使用することも可能です。

側面には吸気用の小孔が並び、燃焼筒の内部へ空気を取り込む構造になっています。
まとめ
Florence Iron Stoveは、電気製品が一般家庭へ普及する以前の生活を伝える灯油ストーブです。3基の独立したバーナー、マイカ窓、鋳鉄製の加熱台を備え、複数のアイロンや調理器具を同時に温められます。
基本構造は遅くとも1886年以前に成立しており、今回の個体はCentral Oil & Gas Stove Company成立後の1890年以降に製造された可能性が高いと考えられます。ただし、同型のトリプル仕様を掲載した一次資料は確認できていないため、正確な年代については今後も調査が必要です。

